東京で暮らすという選択――地方出身・長男の彼が乗り越えた“家族”の壁
東愛知に戻るつもりなんて、今はまったくありません。でも、親のことを考えると、そう言い切ることに、罪悪感があったんです」
婚約中の男性会員さんが、ぽつりと漏らした言葉です。
彼は地方出身の長男。
ご両親は現在も愛知県に住んでおられ、ご実家は地元では誰もが知る大地主。
実家に戻るよう強く言われたことはなかったそうですが、ふとした時に口にされる「跡取りとしての期待」を、彼はずっと感じて生きてきたのでしょう。
「自分の人生を生きたい」という思いと、
「親をがっかりさせたくない」
「先祖からの土地は自分が守りたい」という思い。
それは、どちらが正しくて、どちらが間違っているというものではありません。
どちらも、等しく“本音”です。
婚活を始めた当初から、彼は私たちにこう話していました。
「地元に帰るつもりはないですが、将来的にどうなるかはわからない。先祖から受け継いできた年を、僕の代で絶やすわけにはいかないんです」
そう言いながらも、生活の基盤は東京で作っていくつもりだと、はっきり伝えていました。
そんな彼が、ある女性と出会いました。
彼女は東京生まれ、東京育ち。
親戚もみな関東圏に住んでいて、「結婚しても東京を離れるつもりはない」というタイプの女性でした。
「それでも、なんだかすごく気が合ったんです」
「居心地がよくて、何時間でも話せて」
「この人となら、自然体でやっていける気がした」
彼は、そう感じたそうです。
そして交際が進み、真剣交際へ。
ついにプロポーズをし、彼女もそれを受け入れてくれました。
けれど――
婚約後、ちょっとしたすれ違いが起きました。
ある日、将来の話をしていたときのこと。
「地元の親のことが気になる」と、彼がぽろりと漏らしたのです。
それを聞いた彼女は、驚いた表情を浮かべました。
「え? 地元に帰る可能性があるってこと?」
「私、地方に行く気はないって言ってあったよね?」
「なんで今さらそんな話をするの?」
彼は、焦りました。
「違うんだ、帰るつもりはない。ただ、親のこと、地元の土地をどうすればいいかって、考えてるだけなんだ」
でも、彼女の心には、疑念が残ってしまいました。
「今は帰らないって言っても、将来どうなるか分からないってことだよね?」
「私は、ちゃんと“東京で暮らす”って価値観の人と結婚したいと思ってたのに」
「それって、最初から言ってくれてた?」
彼女は、不安になったのです。
信じていた彼が、自分の将来像とは違う未来を考えているのではないかと。
たったひと言の「気になる」という言葉が、彼女の中で“東京で暮らす”という信念にヒビを入れてしまいました。
……でも。
その後、彼は改めて私に連絡をよこし、そして決断を伝えてきたのです。
「彼女を不安にさせたのは、自分の責任です。自分の中でまだ葛藤があるまま、言葉にしてしまったこと、反省しています」
「でも本心は、彼女と一緒に東京で暮らしていきたい。地元に帰るつもりはないと、親にも伝えるつもりです」
この言葉に、私は強く胸を打たれました。
婚活中は、誰しも“理想の将来像”を思い描きます。
でも、いざ現実に向き合ったとき、それが曖昧な希望だったことに気づくこともある。
それが婚約期間です。
「もう一度、ちゃんと彼女に向き合って、話してきます」
彼はそう言い、東京で暮らす決意をしっかりと彼女に伝えました。
そして彼女も、再び彼の言葉を信じてくれました。
婚約期間というのは、実はとてもデリケートな時期です。
気持ちの揺れや、価値観の違い、将来への不安――
そんな“見えなかったもの”が、一気に浮かび上がってくることがあります。
最短結婚ナビでは、成婚退会をゴールとは考えていません。
結婚は人生のスタート。
その一歩を、安心して踏み出していただけるように。
退会後も、こうしたご相談には何度でも寄り添っています。
彼のように、自分の本音と向き合いながら、それでも相手を思いやる気持ちを忘れない方は、きっと、どんな迷いも乗り越えていける。
私は、そう信じています。
あなたにも、そんな“迷いを一緒に乗り越えてくれる人”と出会ってほしい。
そう願って、今日も会員さんたちと向き合っています。